貸付信託法 (目的) 第一条 この法律は、貸付信託の受益権を受益証券に化体するとともに、受益者の保護を図ることにより、一般投資者による投資を容易にし、もつて国民経済の健全な発展に必要な分野に対する長期資金の円滑な供給に資することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において「貸付信託」とは、一個の信託約款に基いて、受託者が多数の委託者との間に締結する信託契約により受け入れた金銭を、主として貸付又は手形割引の方法により、合同して運用する金銭信託であつて、当該信託契約に係る受益権を受益証券によつて表示するものをいう。 2 この法律において「受益証券」とは、貸付信託に係る信託契約に基く受益権を表示する証券であつて、受託者がこの法律の規定により発行するものをいう。 (信託約款と信託契約) 第三条 信託会社等(信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第三条又は第五十三条第一項(免許)の免許を受けた者をいう。)又は信託業務を営む金融機関(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和十八年法律第四十三号)第一条第一項(兼営の認可)の認可を受けた金融機関をいう。次項第十一号において同じ。)をいう。以下同じ。)は、貸付信託に係る信託契約については、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた信託約款に基づいて、これを締結しなければならない。 2 信託約款においては、次に掲げる事項を記載しなければならない。 一 信託の目的 二 信託契約の締結の際の信託財産の額に関する事項 三 受益証券に関する事項 四 委託者及びその権利義務の承継に関する事項 五 信託の元本及び収益の管理及び運用に関する事項 六 信託の収益の計算の時期及び方法に関する事項 七 信託の元本の償還及び収益の分配の時期、方法及び場所に関する事項 八 当該信託約款に基く信託契約に係る信託財産の合同運用に関する事項 九 前号に掲げる信託財産と他の信託財産との分別運用に関する事項 十 信託契約期間、その延長及び信託契約期間中の解約に関する事項 十一 信託業務を営む金融機関が金融機関の信託業務の兼営等に関する法律第六条(損失の補てん等を行う旨の信託契約の締結)の規定により元本の補てんの契約をする場合においては、その割合その他これに関する事項 十二 信託報酬の計算方法並びにその支払の方法及び時期に関する事項 十三 信託約款の変更に関する事項 十四 当該信託会社等における公告の方法 十五 その他公益又は受益者保護のため必要かつ適当であると認められる事項で内閣府令で定めるもの 3 貸付信託に係る信託契約の期間は、二年以上でなければならない。 4 信託法(平成十八年法律第百八号)第九章の規定は、貸付信託については、適用しない。 (信託約款の承認) 第四条 信託会社等は、前条第一項の規定による承認を受けようとするときは、信託約款を記載した承認申請書に、信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画を記載した書面を添えて、これを内閣総理大臣に提出しなければならない。 2 内閣総理大臣は、前項の規定による承認の申請があつた場合において、信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画が適当であつて、信託約款の内容が法令に違反せず、且つ、公益又は受益者の保護に欠けるおそれがないときは、承認申請書を受理した日から三十日以内に、その承認をしなければならない。 (信託約款の変更) 第五条 信託会社等は、前条の規定により承認を受けた信託約款を変更しようとするときは、変更しようとする事項及び変更の理由を記載した承認申請書を内閣総理大臣に提出して、その承認を受けなければならない。 2 前条の規定は、前項の規定による変更の承認の場合について準用する。この場合において、前条第一項中「信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画を記載した書面」とあるのは「当該信託約款の変更により信託財産の運用計画又は受益証券の発行計画に変更がある場合はその変更に係る計画を記載した書面」と、同条第二項中「信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画」とあるのは「変更に係る信託財産の運用計画又は受益証券の発行計画」と読み替えるものとする。 第六条 受託者は、前条の規定により信託約款の変更について内閣総理大臣の承認を受けた場合には、直ちに、変更の内容及び変更について異議のある受益証券の権利者は一定の期間内にその異議を述べるべき旨を公告しなければならない。 2 前項の期間は、一月を下ることができない。 3 受益証券の権利者が第一項の期間内に異議を述べなかつた場合には、当該権利者は、その変更を承諾したものとみなす。 4 第一項の期間内に異議を述べた受益証券の権利者は、受託者に対して、その変更がなかつたならば有したであろう公正な価格で当該受益証券を買い取ることを請求することができる。 5 信託法第百三条第七項及び第百四条第一項から第十一項までの規定は、前項の規定による請求があつた場合について準用する。この場合において、必要な技術的読替えは、政令で定める。 6 受託者は、第四項の規定による請求があつた場合には、当該請求に係る受益証券をその固有財産をもつて買い取らなければならない。 (信託契約締結の手続) 第七条 信託会社等は、貸付信託に係る信託契約を締結しようとするときは、次の事項を公告しなければならない。 一 信託会社等の商号又は名称 二 信託の目的 三 信託契約の取扱期間 四 各受益証券の券面金額 五 収益の計算の時期 六 元本の償還期限 2 前項第三号の期間は、二月を超えてはならない。 (受益証券) 第八条 貸付信託に係る信託契約に基づく受益権の譲渡及び行使は、記名式の受益証券をもつて表示されるものを除くほか、受益証券をもつてしなければならない。 2 受益証券は、無記名式とする。ただし、受益者の請求により記名式とすることができる。 3 記名式の受益証券は、受益者の請求により無記名式とすることができる。 4 受益証券は、記号、番号、信託約款及び次に掲げる事項を記載し、信託会社等を代表する役員が署名し、又は記名押印しなければならない。 一 貸付信託の受益証券である旨 二 受託者の商号又は名称 三 記名式の受益証券については、受益者の氏名又は名称 四 券面金額 五 信託契約期間 六 信託の元本の償還及び収益の分配の時期及び場所 七 信託報酬の計算方法 八 その他内閣府令で定める事項 5 信託法第八章(第百八十五条、第百八十七条、第百九十条第四項、第百九十二条、第百九十五条第二項、第二百条第二項、第二百六条、第二百七条、第二百八条第一項ただし書、第二百九条、第二百十条及び第二百十二条から第二百十五条までを除く。)の規定は、貸付信託について準用する。この場合において、これらの規定中「法務省令」とあるのは「内閣府令」と、同法第百八十九条第四項及び第百九十一条第五項中「官報に公告しなければ」とあるのは「公告しなければ」と、同法第百九十四条中「受益証券発行信託の受益権(第百八十五条第二項の定めのある受益権を除く。)」とあるのは「記名式の受益証券が発行されている受益権」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。 (受益証券発行の届出) 第九条 受託者は、貸付信託に係る信託契約の取扱期間経過後遅滞なく、当該取扱期間中に発行した受益証券の種類及びその種類ごとの総額を内閣総理大臣に届け出でなければならない。 (委託者の権利義務の承継) 第十条 受益証券を取得する者は、その取得により、当該受益証券に係る信託契約の委託者の権利義務を承継するものとする。この場合において、第八条第一項の規定は、委託者の権利の行使について準用する。 (受託者による受益証券の取得) 第十一条 受託者は、第六条第六項の規定による場合を除くほか、受益証券が発行の日から一年以上を経過している場合に限り、その固有財産をもつて時価により当該受益証券を買い取ることができる。 (信託財産の運用) 第十二条 貸付信託の信託財産は、当該貸付信託の信託財産以外の信託財産と分別して運用しなければならない。 第十三条 受託者は、貸付信託の信託財産を、もつぱら貸付け又は手形の割引の方法により運用しなければならない。 2 受託者は、前項の方法によるほか、支払準備その他の必要があると認められる場合には、貸付信託の信託財産を、有価証券の取得の方法により運用することができる。 3 前二項の規定は、貸付信託に係る信託契約の取扱期間中における当該信託契約に係る信託財産及び貸付信託の信託財産の運用上生じた余裕金については、適用しない。 (特別留保金) 第十四条 受託者は、貸付信託について、元本に損失を生じた場合にこれを補てんする契約をしたときは、その補てんに充てるため、当該貸付信託の収益の計算の時期ごとに、その収益のうちから特別留保金を積み立て、当該貸付信託の信託財産に留保しなければならない。 2 受託者は、貸付信託の信託財産の元本に損失を生じた場合に限り、当該損失を補てんするため、前項の規定による特別留保金を取りくずすことができる。 3 第一項の規定により積み立てる特別留保金の限度及び積立の方法は、政令で定める。 4 受託者は、第一項の特別留保金の金額が、当該貸付信託に係る元本の償還によつて、前項の規定に基く政令で定める限度をこえることとなつたときは、そのこえる金額を、当該貸付信託に係る信託約款の変更により元本の補てんの契約を解約したときは、特別留保金の金額を、それぞれ、信託報酬として取得しなければならない。 (公告の方法) 第十五条 この法律の規定により貸付信託に関してする公告は、当該貸付信託の受託者である信託会社等(受託者である信託会社等の任務終了後新受託者である信託会社等の就任前にあつては、前受託者である信託会社等)における公告の方法(公告の期間を含む。)によりしなければならない。 (通貨及証券模造取締法の準用) 第十六条 通貨及証券模造取締法(明治二十八年法律第二十八号)は、受益証券の模造について準用する。 (金融庁長官への権限の委任) 第十七条 内閣総理大臣は、この法律による権限(政令で定めるものを除く。)を金融庁長官に委任する。 (過料に処すべき行為) 第十八条 信託会社等、貸付信託の受託者又は受益権原簿管理人は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。 一 第六条第一項若しくは第七条第一項又は第八条第五項において準用する信託法第百八十九条第四項若しくは第百九十一条第五項の規定による公告をすることを怠つたとき、又は不正の公告をしたとき。 二 第八条第四項の規定に違反して、受益証券に記載すべき事項を記載せず、又は虚偽の記載をしたとき。 三 第八条第五項において準用する信託法第百八十六条の受益権原簿(以下「受益権原簿」という。)を作成せず、又はこれらに記載し、若しくは記録すべき事項を記載せず、若しくは記録せず、若しくは虚偽の記載若しくは記録をしたとき。 四 第八条第五項において準用する信託法第百九十条第一項の規定に違反して、受益権原簿を備え置かなかつたとき。 五 第八条第五項において準用する信託法第百九十条第三項の規定に違反して、正当な理由がないのに、受益権原簿の閲覧若しくは謄写又は電磁的記録をもつて作成されている受益権原簿に記録された事項を内閣府令で定める方法により表示したものの閲覧若しくは謄写を拒んだとき。 六 第八条第五項において準用する信託法第二百二条第一項の規定に違反して、書面の交付又は電磁的記録の提供を拒んだとき。 七 第九条の規定による届出をしなかつたとき。