自衛隊員倫理法
平成十一年八月十三日法律第百三十号
目次
第一章 総則(第一条―第四条)
第二章 自衛隊員倫理規程(第五条)
第三章 贈与等の報告及び公開(第六条―第九条)
第四章 自衛隊員倫理審査会及び懲戒手続等(第十条―第十二条)
第五章 倫理監督官(第十三条)
第六章 雑則(第十四条)
第一章 総則
(目的)
第一条この法律は、自衛隊員が国民全体の奉仕者であってその職務は国民から負託された公務であることにかんがみ、自衛隊員の職務に係る倫理の保持に資するため必要な措置を講ずることにより、職務の執行の公正さに対する国民の疑惑や不信を招くような行為の防止を図り、もって公務に対する国民の信頼を確保することを目的とする。
(定義等)
第二条この法律において、「自衛隊員」とは、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員(常勤を要しない者(同法第四十四条の五第一項に規定する短時間勤務の官職を占めるものを除く。)を除く。)をいう。
この法律において、「部員級以上の自衛隊員」とは、次に掲げる自衛隊員(第一号、第三号及び第四号に掲げる自衛隊員については、防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和二十七年法律第二百六十六号。以下「給与法」という。)第十一条の三第一項に規定する俸給の特別調整額の支給を受ける者に限る。)をいう。
給与法別表第一自衛隊教官俸給表の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級二級のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号。以下「一般職給与法」という。)別表第一イ行政職俸給表(一)の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級五級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第六イ教育職俸給表(一)の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級三級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第六ロ教育職俸給表(二)の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級三級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第七研究職俸給表の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級四級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第八イ医療職俸給表(一)の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級三級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第八ロ医療職俸給表(二)の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級六級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第八ハ医療職俸給表(三)の適用を受ける自衛隊員であって、同表の職務の級六級以上のもの
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第十指定職俸給表の適用を受ける自衛隊員
給与法第四条第二項の規定により一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律(平成十二年法律第百二十五号。次項において「一般職任期付職員法」という。)第七条第一項の俸給表に定める額の俸給を受ける自衛隊員
十一給与法第四条第三項の規定により一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律(平成九年法律第六十五号)第六条第一項の俸給表に定める額の俸給を受ける自衛隊員
十二三等陸佐、三等海佐又は三等空佐以上の自衛隊員
この法律において、「審議官級以上の自衛隊員」とは、次に掲げる自衛隊員をいう。
給与法第四条第一項の規定により一般職給与法別表第十指定職俸給表の適用を受ける自衛隊員
給与法第四条第二項の規定により一般職任期付職員法第七条第一項の俸給表に定める額の俸給(同表六号俸の俸給月額以上のものに限る。)を受ける自衛隊員
給与法別表第二自衛官俸給表の適用を受ける自衛隊員であって、同表の陸将、海将及び空将の欄に定める額の俸給を受けるもの並びに陸将補、海将補及び空将補の(一)欄に定める額の俸給を受けるもの
この法律において、「事業者等」とは、法人(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含む。)その他の団体及び事業を行う個人(当該事業の利益のためにする行為を行う場合における個人に限る。)をいう。
この法律の規定の適用については、事業者等の利益のためにする行為を行う場合における役員、従業員、代理人その他の者は、前項の事業者等とみなす。
(自衛隊員が遵守すべき職務に係る倫理原則)
第三条自衛隊員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならない。
自衛隊員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならない。
自衛隊員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならない。
(国会報告)
第四条内閣は、毎年、国会に、自衛隊員の職務に係る倫理の保持に関する状況及び自衛隊員の職務に係る倫理の保持に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない。
第二章 自衛隊員倫理規程
第五条内閣は、第三条に掲げる倫理原則を踏まえ、自衛隊員の職務に係る倫理の保持を図るために必要な事項に関する政令(以下「自衛隊員倫理規程」という。)を、国家公務員倫理法(平成十一年法律第百二十九号)第五条第一項に規定する国家公務員倫理規程に準じて定めるものとする。この場合において、自衛隊員倫理規程には、自衛隊員の職務に利害関係を有する者からの贈与等の禁止及び制限等自衛隊員の職務に利害関係を有する者との接触その他国民の疑惑や不信を招くような行為の防止に関し自衛隊員の遵守すべき事項が含まれていなければならない。
防衛大臣は、自衛隊員の職務に係る倫理に関する訓令を定めることができる。
防衛大臣は、前項の訓令を定めるに当たっては、自衛隊員倫理審査会の意見を聴かなければならない。
内閣は、自衛隊員倫理規程及び第二項の訓令の制定又は改廃があったときは、これを国会に報告しなければならない。
第三章 贈与等の報告及び公開
(贈与等の報告)
第六条部員級以上の自衛隊員は、事業者等から、金銭、物品その他の財産上の利益の供与若しくは供応接待(以下「贈与等」という。)を受けたとき又は事業者等と自衛隊員の職務との関係に基づいて提供する人的役務に対する報酬として自衛隊員倫理規程で定める報酬の支払を受けたとき(当該贈与等を受けた時又は当該報酬の支払を受けた時において部員級以上の自衛隊員であった場合に限り、かつ、当該贈与等により受けた利益又は当該支払を受けた報酬の価額が一件につき五千円を超える場合に限る。)は、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの各区分による期間(以下「四半期」という。)ごとに、次に掲げる事項を記載した贈与等報告書を、当該四半期の翌四半期の初日から十四日以内に、防衛大臣に提出しなければならない。
当該贈与等により受けた利益又は当該支払を受けた報酬の価額
当該贈与等により利益を受け又は当該報酬の支払を受けた年月日及びその基因となった事実
当該贈与等をした事業者等又は当該報酬を支払った事業者等の名称及び住所
前三号に掲げるもののほか自衛隊員倫理規程で定める事項
防衛大臣は、前項の規定により提出を受けた贈与等報告書の写しを自衛隊員倫理審査会に送付するものとする。
(株取引等の報告)
第七条審議官級以上の自衛隊員は、前年において行った株券等(株券、新株予約権証券又は新株予約権付社債券をいい、株券、新株予約権証券又は新株予約権付社債券が発行されていない場合にあっては、これらが発行されていたとすればこれらに表示されるべき権利をいう。以下この項において同じ。)の取得又は譲渡(審議官級以上の自衛隊員である間に行ったものに限る。以下「株取引等」という。)について、当該株取引等に係る株券等の種類、銘柄、数及び対価の額並びに当該株取引等の年月日を記載した株取引等報告書を、毎年、三月一日から同月三十一日までの間に、防衛大臣に提出しなければならない。
防衛大臣は、前項の規定により提出を受けた株取引等報告書の写しを自衛隊員倫理審査会に送付するものとする。‐
(所得等の報告)
第八条審議官級以上の自衛隊員(前年一年間を通じて審議官級以上の自衛隊員であったものに限る。)は、次に掲げる金額及び課税価格を記載した所得等報告書を、毎年、三月一日から同月三十一日までの間に、防衛大臣に提出しなければならない。
前年分の所得について同年分の所得税が課される場合における当該所得に係る次に掲げる金額(当該金額が百万円を超える場合にあっては、当該金額及びその基因となった事実)
総所得金額(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二十二条第二項に規定する総所得金額をいう。)及び山林所得金額(同条第三項に規定する山林所得金額をいう。)に係る各種所得の金額(同法第二条第一項第二十二号に規定する各種所得の金額をいう。以下同じ。)
各種所得の金額(退職所得の金額(所得税法第三十条第二項に規定する退職所得の金額をいう。)及び山林所得の金額(同法第三十二条第三項に規定する山林所得の金額をいう。)を除く。)のうち、租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)の規定により、所得税法第二十二条の規定にかかわらず、他の所得と区分して計算される所得の金額
前年中において贈与により取得した財産について同年分の贈与税が課される場合における当該財産に係る贈与税の課税価格(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)第二十一条の二に規定する贈与税の課税価格をいう。)
前項の所得等報告書の提出は、納税申告書(国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)第二条第六号に規定する納税申告書をいう。以下同じ。)の写しを提出することにより行うことができる。この場合において、同項第一号イ又はロに掲げる金額が百万円を超えるときは、その基因となった事実を当該納税申告書の写しに付記しなければならない。
防衛大臣は、前二項の規定により提出を受けた所得等報告書等(第一項の所得等報告書又は前項の納税申告書の写しをいう。次条第一項において同じ。)の写しを自衛隊員倫理審査会に送付するものとする。
(報告書の保存及び閲覧)
第九条前三条の規定により提出された贈与等報告書、株取引等報告書及び所得等報告書等(以下「各種報告書」という。)は、これらを受理した防衛大臣において、これらを提出すべき期間の末日の翌日から起算して五年を経過する日まで保存しなければならない。
何人も、防衛大臣に対し、前項の規定により保存されている贈与等報告書(贈与等により受けた利益又は支払を受けた報酬の価額が一件につき二万円を超える部分に限る。)の閲覧を請求することができる。ただし、防衛大臣が、自衛隊員倫理審査会の意見を聴いて、次の各号のいずれかに該当するものとしてあらかじめ認めた事項に係る部分については、この限りでない。
公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるもの
第四章 自衛隊員倫理審査会及び懲戒手続等
(自衛隊員倫理審査会の設置)
第十条自衛隊員の職務に係る倫理の保持に関する防衛大臣の事務を補佐させるため、防衛省に、自衛隊員倫理審査会(以下「審査会」という。)を置く。
(所掌事務及び権限等)
第十一条審査会の所掌事務及び権限は、次のとおりとする。
次に掲げる事項を調査審議し、及びこれらに関し必要と認める事項を防衛大臣に建議すること。
自衛隊員倫理規程に関する事項
この法律又はこの法律に基づく命令(第五条第二項の規定に基づく訓令を含む。以下同じ。)に違反した場合に係る懲戒処分の基準に関する事項
自衛隊員の職務に係る倫理の保持に関する事項に係る調査研究及び企画に関する事項
自衛隊員の職務に係る倫理の保持のための研修に関する事項
自衛隊員倫理規程の遵守のための体制整備に関する事項
各種報告書の審査を行うこと。
次条第一項の規定により防衛大臣の命を受けて、この法律又はこの法律に基づく命令に違反している疑いがあると思料する行為又は違反する行為について調査を行うこと。
第五条第三項、第九条第二項ただし書並びに次条第二項及び第三項の規定に基づく防衛大臣の諮問に応じて意見を述べること。
前各号に掲げるもののほか、法律又は法律に基づく命令に基づき審査会に属させられた事務及び権限
審査会の組織、委員その他必要な事項については、政令で定める。
(防衛大臣による懲戒手続等)
第十二条防衛大臣は、自衛隊員にこの法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行った疑いがあると思料するときは、審査会に対し、当該行為に関する調査を行うよう命じなければならない。
防衛大臣は、前項の調査の結果、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為があることを理由として懲戒処分を行おうとするときは、審査会の意見を聴かなければならない。
防衛大臣は、自衛隊員にこの法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為があることを理由として懲戒処分を行った場合において、自衛隊員の職務に係る倫理の保持を図るため特に必要があると認めるときは、審査会の意見を聴いて、当該懲戒処分の概要の公表(第七条第一項の株取引等報告書中の当該懲戒処分に係る株取引等についての部分の公表を含む。)をすることができる。
第五章 倫理監督官
第十三条自衛隊員の職務に係る倫理の保持を図るため、防衛省に、倫理監督官一人を置く。
倫理監督官は、自衛隊員の職務に係る倫理の保持に関し、必要な指導及び助言並びに体制の整備を行う。
倫理監督官は、前項に規定する職務を行うに当たっては、国家公務員倫理審査会と常に緊密な連絡を保たなければならない。
第六章 雑則
第十四条この法律に定めるもののほか、この法律の実施に関し必要な事項は、政令で定める。